やっぱり銀座は“大人の街”

歌舞伎座に通うようになったせいか、銀座が気になる。もともと、高校生ぐらいから銀座はうろうろと歩き回った街であったが、ここ数年、あまり銀座に足を踏み入れていなかった。ひとつには、以前の住まいから都心の盛り場のひとつに、歩いて5分ほどで行けたせいもある。
日常の買い物だけでなく、本やCD、洋服、インテリア用品といったものも、手近なデパートですべてまかなえるので、わざわざ地下鉄に乗って銀座まで行く必要性をあまり感じなかったのだ。

そうこうするうち、銀座の街はずいぶん変貌を遂げた。
交詢社ビルが取り壊され、イエナ洋書店・近藤書店が相次いで閉店してしまった。その一方で、舶来文化の街らしく、海外ブランドのショップが並木通りを中心に続々オープンしている。
また、かつて銀座ではほとんど見かけなかったカラオケボックスが、かなりいい場所に出来ていたり、いつの間にか松竹本社が最新流行スポットかと見まごうばかりのビルに建て代わっているのに驚いたり。

銀座は昔から大人の街というイメージがあるせいか、渋谷のように、我が物顔であたり構わず座り込む若者も少ないし、人を掻き分けないと歩けないということは、滅多にない。ゆったりと“散歩気分”で歩ける街だ。
若造の頃、仕事の関係で、ほぼ毎日銀座に通っていた時期がある。当時の目標は、「銀座が似合う大人になりたい」だったが、年齢だけは大人になっていなければというところに到達してしまったが、中身はまだまだ”銀座が似合う大人”には程遠い。

銀座が似合う男といえば、なんと言っても永井荷風だろう。
洋行帰りの荷風にとって、舶来文化の発信地である銀座は、居心地のいい街だったらしく、彼の『断腸亭日乗』にも、しばしば銀座が出てくる(というのは、雑誌の記事の受け売りで、まだ実はこの日記を岩波文庫版の摘録を拾い読みしている程度なのだが)。
ほかに、銀座が似合うといえば、池波正太郎先生や戸板康二先生、小津安二郎吉田健一などを思い浮かべる。

そして、先日ついつい衝動買いしてしまった「都会ぐらし」という雑誌の銀座特集には、なんと左團次さんが“隠れた銀座の達人”として登場していらした。
確かに、ダンディな左團次さんと銀座の街角はよく似合うなぁと、グラビア写真を拝見して、惚れ惚れしてしまった。
やはり、銀座は“大人の街”だなと、この写真を見て再確認した。