当代一の聞き書き者

<b>『役者は勘九郎』</b>(文春文庫)を読んで、関容子さんの聞き書きは当代では天下一品だな、と感じていた。関さんが歌舞伎役者の聞き書きを始めるきっかけとなった<b>『中村勘三郎楽屋ばなし』</b>(文春文庫)を再読して、その思いはますます強くなった。
学生時代に、この本は読んでいたはずなのだが、今回改めて読んでみて、勘三郎さんという役者さんの大きさ、色気、茶目っ気、といったものを感じた。

そもそも、関さんに勘三郎さんの聞き書きを勧めたのは、戸板康二先生だったということは、今回あとがきを読んでいて、初めて気が付いた。戸板先生は、関さんが「短歌」に連載し、のちに本としてまとまった<b>『日本の鶯』</b>という堀口大學聞き書きを読んでいらして、関さんにアドバイスしたのだという。
気むずかしいところのある勘三郎さんのところへ、飛び込みでお願いに行って、わずか3分で承諾を得たという関さんは、やはり聞き書きの才能をもって生まれた方なのだろうな、と思う。

関さんは、お相手が勘三郎さんにせよ、勘九郎さんにせよ、時に、聞き難そうなことでもズバっと聞いて、その答えをきちんと引き出していらっしゃる。また、お弟子さんや中村屋の周りにいる様々な人が、関さんに信頼を寄せていらっしゃることも、伝わって来る。それは、彼女が勘三郎さんの芸を後世に伝えたいという気持ちで、誠実に接していらっしゃったからだろうし、周りの方々にも、細やかな気配りをされていたからだろう。

中村屋が関さんに楽しく語った話が、関さんの筆によって再現され、楽しく読んでいくうちに、歌舞伎という芸の奥深さや人としての生き方を知らず知らずのうちに学ぶことができる。
『日本の鶯』もなんとか手に入れて読んでみたいと、改めて思っている。