立川談春独演会@ブディストホール

開場してから15分後くらいに到着すると、もはや前の方の席はビッシリ。後ろの方も、かなり埋まっていて、補助席に座っている方も。普通の席になんとか空きを見つけて、無事、なかなかよい位置を確保できた。
並びに座っていらしたのは、いつも独演会などでお見かけする方。ロビーにもお馴染みさんがたくさん。とはいえ、一匹狼のわたしは、勝手に「ア、あの方はやっぱりいらしてる!」とか思っているだけなのだけれど(笑)。
プログラムの裏表紙には、今後のスケジュールがびっしり。あー、本当に売れっ子になっちゃったんだなぁと、嬉しいような、ちょっと寂しいような・・・。いや、芸人さんというのは、(正しく)売れてナンボのものですから、目出たいことです。
一席目はプログラムにネタ出しされていて「文違い」、そして仲入り後は「お楽しみ」。プログラムの文章は、このあいだの「研鑽会」のこと。昇太さんの時と、ご自分のトリの時の空気が違う、というところから始まる。で、最後に「噺家の季節知らずと昔から申しまして・・・」という締めくくり。「ええ、まさか『芝浜』はやらないよねぇ」と思ったのだった。
「文違い」。マクラでもちょっと研鑽会のことに触れていて、当日、客席にいたらしき一部観客にはウケていた(笑)。このネタは結構いろんな噺家さんで聞いているのだけれど、やっぱり、談春さんの「文違い」がマイベストだなぁと思っている。毎回、どこかしらが進化していて、でも、いつも面白いところは面白いのだ。この前、調布で「おしっくら」を聞いた時にも思ったのだけれど、談春さんが演じる田舎モノって、本当に訛が激しくて、おかしいのだ。そして、鼻っぱしらがやたら強くてちゃっかりしていて、でもかわいいところもあって、そんな新宿のお女郎さんが、二人の男を見事に手玉にとっておきながら、そのお女郎さんがまた、色男にコロっと騙される。我が身に置き換えて、ちょっと身につまされちゃったりし・・・たりはしませんけどね(爆)。なんで、女心がわかるのかなぁ? 談春さんの「五人廻し」とか「三枚起請」とか、聞きたいなぁ・・・。
今回は、珍しく?そのまま緞帳が降りて、お仲入り。仲入りでは、7月と8月の独演会のチケットを先行販売するということで、ロビーにでたらすでに延々長蛇の列。とある方を探していたのだけれど、眼鏡を忘れたのと、ロビーが暗かったのとで、お目にかかれず。残念。途中で用意してあったチケットがなくなってしまい、紙に名前を書いて、予約ということになった。
仲入り後は、出囃子が3杯くらいあったのではないかしら? やっと登場した談春さんは、羽織なしの着流し姿。座ってお辞儀を終えると、そのままもうネタに入った。すぐに「エエ! 『芝浜』??」とびっくりするやら、嬉しくなるやら。4月にニッポン放送のホールであった独演会で「人情噺が聞きたい人は、お寺へどうぞ」と言っていたとのことで、その時からもう「芝浜」をやろうと決めていたのかなぁ? 
これまでに「芝浜」も生で何人かの噺家さんのを聞いている。去年の暮れには、念願の談志師匠のも聞いた。で、今回の談春さんの「芝浜」では、今までに聞いたのとは違って、財布を拾って帰って来たところから、魚勝が働き出すまでが、丁寧に語られていた。談志師匠がかつて、おかみさんを”生意気でいやな女”に描いたことがあったという。去年の暮れに聞いたときは、それともまた違うおかみさん像が描かれていたと思う。で、談春さんの描くおかみさんは・・・。しっかり者であるのはもちろんなのだけれど、財布を拾って来た翌朝、魚勝を揺り起こして、仕事に行かせるまでのおかみさんの言葉の端々に、後ろめたさ、心苦しさ、といったものがにじみ出ている。だから、やっと御神輿をあげようとする魚勝とのやりとりで、そのことがより一層明らかになっていたと思う。
そして、3年後の大晦日。ついに「あれは、夢じゃなかったんだよ」と打ち明けられた魚勝が「なんでそんな嘘をついたんだ」と聞くところ、魚勝が怒って女房を問いつめるのではなくて、狐につままれたようなリアクション。だから、魚喝が本当に酒をやめて脇目もふらずに商売に頑張った、ということ、おかみさんもその亭主をしっかり後ろで支えて、小さいとはいえ店を構えるに至ったということ、それが素直に「良かったね」と思えるような流れになっている。店を構えると決まった時につい、おかみさんに向かって「だいじょうぶ?」と聞いちゃう魚勝が、なんかかわいいぞ! そして、おかみさんが「本当のことを言ったら、お前さんがまた、のんだくれちゃうんじゃないかと思うと、怖くて言えなかったんだよ」というあたりで、このおかみさんが単なるやり手なんじゃないというのが感じられて、気持いい。そして、そんなおかみさんの気持を素直に受け入れてやれる魚勝っていうのは、いい男じゃないか!と思える。
そして、「隠居さんに聞いたんだけどよ、除夜の鐘が鳴ったら、チャラなんだってよ。だから、もういいじゃねぇか」と。「酒を飲んでいいのか?」と何度も聞きながら、3年ぶりの酒の匂いを、本当に嬉しそうに楽しむ魚勝がかわいいし、おかみさんもかわいいし、ああ、魚勝に心底惚れてるんだなぁというおかみさんだった。
途中で携帯電話は延々と鳴るし、その直後に裏の方で鉄の扉が閉まる音はするし、そこでそれまで張りつめていたものがキレちゃうかなぁ?というスリルもあって、楽しかった(笑)。
きっと、落語の神様が談春さんにやきもちをやいたんじゃないかなぁ? で、わざと邪魔をしてみたんじゃないかなぁ?
そうそう、除夜の鐘が百八つというのは、四苦八苦(4×9=36、8×9=72で、足して108)からきているというのは、初めて聞いた。
さて、次はにぎわい座の「談春四季の会 夏」だ! 今度は何が聞けるのか?! ますます楽しみ。