『松緑藝話』

初代尾上松緑じーちゃんの芸談集。高麗屋三兄弟の末っ子で、六代目菊五郎に預けられたのが、松緑じーちゃん。長兄は海老様こと十一代目團十郎、次兄が松本白鸚になった八代目幸四郎
松緑じーちゃんは、戦争に行った話を折にふれてなさっていたので、こうして芸談にまとまる前に、聞いたことのある(読んだことのある話)は、いくつかあったのだけれど、時系列に沿って改めて読んでみると、あの時代に生まれた同世代の人たちはみんなそうだとはいえ、大変な時代を生き抜いた人だったんだなぁと、いうことがわかる。
聞き手をした織田紘二さんのあとがきを読むと、実はこの何倍もの演目についての話を聞いたのだが、全部を活字にすることはできなかったそうだ。そして、元版の単行本は、じーちゃんが亡くなる直前に完成したのだそうだ。間に合ってよかった…。
やはり、六代目との思い出や六代目の教えについてがたくさん出てきて、そこに松緑じーちゃん自身の体験も加わって、面白い話が次々に出てくる。
それにしても、辰之助さんの急死がやはり悔やまれる…。言っても詮無いことなのだけれど、今でも芝居を見ていて「あー、辰之助さんがいたら」と思うことが時々ある。辰之助さんが生きていてこの役をやったらどんなだったんだろう?と。魚屋宗五郎、南郷力丸、狐忠信、早野勘平などなど。そして、辰之助さんで見たかった踊りの数々…。辰之助さんが元気だったら、菊五郎さんももうちょっと女形もやってくださるんじゃないだろうか?とか…。
ついつい、そんなことを思い出しつつ読み終えた。
芸談好きな方には、オススメの1冊。とはいえ、絶版なので、古書店で探さないといけないのだけれど。
講談社さんには、100周年で新刊をバンバン出すのもいいが、絶版にしちゃったいい本を復刊するプロジェクトもこの際、お願いしたい。

松緑芸話 (講談社文庫)

松緑芸話 (講談社文庫)