人情話の王道(1)

宮部みゆきさんの<A HREF=http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3be9eb04314cb0105a09?aid=p-mittei16105&bibid=01210681&volno=0000>『本所深川ふしぎ草紙』</A>(新潮文庫)読了。

「片葉の芦」「送り提灯」「置いてけ堀」「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」の全七話。
解説の池上冬樹さんによれば、宮部さんがご贔屓にしている、錦糸町駅前の「山田屋」という人形焼き屋さんの包み紙に描かれた「本所七不思議」が作品のモチーフとなっているそうだ。

本所・深川で起こるちょっと不可思議な事件。そこには「七不思議」がからんでいる。しかし、そのつながりは必ずしも直接的なわけではない。「七不思議」と本所・深川で暮らす人々の喜び・悲しみ・苦しみ・嫉みといったものが、それぞれの事件に見事にからまりあっている。
それらの事件を解決するのが、回向院の茂七親分だ。

ここでは、茂七親分は、あくまでも脇役で、主役は本所・深川に暮らす庶民なのだ。そこに描かれた人々の生きる姿、それを温かく見守る人の目線、そういったものに、心惹かれる。

例えば、「片葉の芦」では、当時はまだ珍しかった近江屋という「握り寿司」だけを売り物にした寿司屋の父と娘、そしてその娘を慕う蕎麦屋の若者・彦次をめぐって物語が進む。
片葉の芦は、両国橋の北にある小さな堀留に生える芦の葉が、どういうわけか片側にしかつかないことから、そう呼ばれるようになった。
寿司屋の娘・お美津と蕎麦屋の若者・彦次が交わした約束の証が、この片葉の芦の葉なのだが・・・。

お美津の父・藤兵衛がある朝、本所駒止橋の上で発見される。財布を盗られ、頭の後ろに大きな傷を負った姿であったので、物盗りの犯行とも思われるが、回向院の茂七親分の見立てでは、娘のお美津が怪しいという噂が立つ。この父娘は昔から折り合いが悪く、しょっちゅう喧嘩が絶えなかったのだが、大方の原因は金や商売のやり方等だったというのが、彼女に嫌疑がかかった理由である。
しかし、彦次は「あのお美津お嬢さんに、人を殺すことなどできるわけがない」と、必死に訴える。
そして、事件は思わぬところから解決するのだが・・・。