地下鉄の車内観察も面白い

昨日、地下鉄千代田線の最後尾の車両の一番後ろのドア付近に立っていて見かけた光景は、ちょっと面白かった。
もうすぐ表参道駅というあたりで、ふと読んでいた本から眼を上げると、まだ二十代前半くらいの車掌さんが、後ろ向きで飛び跳ねながら手を振っている。
「なんだなんだ?」と眼をこらすと、どうやら反対方向に走っていく電車の後ろ姿が見えた。
「きっと、仲良しの車掌さんが乗務していたので手を振ったのだろう」と納得したところで、電車が表参道駅のホームに滑り込んだ。
アナウンスの声を聞くと、先ほどは二十代前半に見えた車掌さんとは思えない声質にも聞こえる。そこで、もう一度ホームに出て発車ブザーを押そうとしている車掌さんの顔を見てみようと、目を向けた。かぶった帽子の庇が邪魔になって、もう一つよく顔が見えない。でも、年配の車掌さんがあんなに飛び跳ねたりしないだろうと、さらに見ていると、今度は「発車しまーす! 発車しまーす!」を連呼している。やはりこの車掌さんは若い人に違いないと確信して、発車直後も注目していると、日焼けしているような顔で、ちょっといたずらっ子のような目が笑っていた。

時折抜き打ち検査のように、上役の車掌さんが乗ってくることがあるというのを、椎名誠さんの『さらば国分寺書店のおばば』で読んだことがあったが、さしずめ、この車掌さんがそういう目にあったら、ヘドモドしてしまうのだろうな、と心配になってしまった。いや、案外こういう人は、そういう時は要領よく、上役さんのお気に召すような模範的な乗務態度を見せたりして。
しかし、この車掌さんの一連の行動に注目していたのがわたしだけというのは、ちょっと惜しいような気もする。

電車に乗るとついつい活字を読みたくなってしまって、車内の人を観察することはあまりないのだが、車内観察も面白いな、と思った。