案外、気軽に着られそうなきもの(1)

きものが着たいなあ、と思うようになったのには、いくつかの理由が時間差でやってきて、それが一気にまとまったからだ。
第一は、やはり歌舞伎熱の再燃だろう。最初に歌舞伎に通うようになった頃も、やはりきものが着たくて、母に着せてもらったり、着方を教わったりして、何度かは劇場にきもので足を運んだ。ちなみに、当時は熱が嵩じて長唄三味線のお稽古にも通っていた(今は昔の話だが)。
当時は、まわりに粋にきものを着こなすお姉さま、おばさま、お兄さん、おじさまがたくさんいらっしゃって、憧れたものだった。
ちなみに今でも、男性のきもの姿にはちょっとうるさいと、自認している。

第二は、青木玉さんの<b>『幸田文の箪笥のひきだし』</b>(新潮文庫)を読んだことだ。
玉さんは、お母様のきものに託して、思い出を語っていらっしゃるが、そこに出てくる話の奥ゆかしさ、写真になっている文さんのきもののセンスの良さ、素晴らしさにすっかり魅せられてしまった。
そして、折からの昔きものブームで、きもの関係の本がたくさん本屋さんに並んでいるのを見かけて、つい手にとってみると、かつてに比べれば気軽に着られそうだということが、なんとなくわかってきた。
大橋歩さんやスタイリストの原由美子さんの本なども買って読んだし、樋口可南子さんや檀ふみさんといったきものが似合う女優さんの本を、本屋さんで見かけるたびに手にとってうっとり眺めたりしている。

そんな中で、とくに気に入ったのが、遠藤瓔子<b>『きものであそぼ』</b>(祥伝社)と遠藤瓔子<b>『きものであそぼ Text Book』</b>(祥伝社)の2冊が、今のところわたしのきものの教科書だ。
遠藤さんは、作家の安部譲二さんの前妻で、JALのスチュワーデスからモデルに転進し、安部さんと結婚後は青山で「ロブロイ」というジャズのお店を切り盛りされていた方。
安部さんと結婚中は「月に30万まではきものに使っていい」というお許しをいただいて、毎月、京都からなじみの呉服屋さんが品物を運んできてくれたのだそう。
そんな遠藤さんが、昔きものに目覚めたのは、継母の看病のために実家に戻って、お母様が残した箪笥ひと棹分の古いきものを見つけて、それを調べていくうちに「これはとんでもない宝の山かもしれない」と思ったのがきっかけだったと、『きものであそぼ』の冒頭で書いておられる。