このままずっと・・・(1)

昨日に続いて、歌舞伎座昼の部を見物。
お目当ては、やはり雀右衛門さんの「葛の葉」と、玉三郎さんの「藤娘」でしょう。

歌右衛門さんの「千代萩」”まま炊き”も「これが最後かも?」という時に拝見しているのだが、今回の雀右衛門さんの「葛の葉」が出ると聞いたときは、同じような気分だった。
しかし、竹本葵太夫さんのHPで、お稽古のご様子やら、舞台が開いてからのエピソードなどを拝読すると「そんな気分で出かけるのは、大変失礼だな」と、期待は高まっていた。

実際、舞台を拝見して、とても御年80ウン歳とは思えない、早替りの見事さにまず圧倒される。そして、狐が化けた葛の葉と、本物の葛の葉との性根の違いをきっちりと演じきっていらっしゃるのは、さすが、というのも失礼か。
この芝居中、最大のクライマックスである、障子に筆で和歌を書くところでも、右手でまず書いて、子供が出てきたところであやしながら左手で書き、最後は口にくわえた筆で書くという、一歩間違えれば”曲芸”となってしまうところを、眠りから醒めて自分を恋しがる子供への情愛、その子供や夫と別れなければならないという惜別と憾みが、その筆を操る所作にきっちりと表現されている。
そして花道スッポンでの狐の型もきっちりと見せ、揚幕に引っ込むときに、後に残る後ろ髪を引かれる思い。
しっかりと堪能させていただいた。

そして、お待ちかね、玉三郎さんの「藤娘」。
今回は、通常の藤の花のつり枝を配する装置ではなくて、一面に藤の花を描いた屏風を立てまわすという趣向。
あの藤の花のつり枝の房が大きいのは、体が大きかった六代目が愛らしさを表現するために工夫したと伝わっているが、スラリとした玉三郎さんの場合、今回の屏風を立てまわすという演出で、かえってすっきりとしたのではないだろうか。
最初に屏風の間から登場した途端に、場内には観客のため息があふれる。とにかく綺麗の一言に尽きる。
最初の一くさりは、手足の指先まで神経が行き届いた、玉三郎さんらしい踊り。