甲斐庄楠音に興味が湧いた『着物をめぐる物語』(2)

女の美しさにこだわり続けたかに見えた甲斐庄は、しかし本当のところ、
<b>「綺麗なべべ着られる女に嫉妬(へんねし)してたんやないやろか。だから孕んだ裸の女や、女郎の絵を描いてたんとちがうやろうか。そう気づいたら、わしはまた筆を持てるようになったんや……」</b>
と、ふたたび画がかけるようになったきっかけを、由美子にきものを着せながら、つい語ってしまう。

何点か、わたしが見たことのある甲斐庄の絵は、暗くてジメっとした印象が強い。下品になる一歩手前のところで踏み止まっている、そんな気がする。
この物語は、甲斐庄をモデルにしたフィクションだと、冒頭で断ってある。林さんが紡ぎだしたこの物語を読んだことで、甲斐庄楠音という画家に断然興味が湧いて来たのだった。