『大向うの人々』

歌舞伎好きにとって、大向うは歌舞伎には欠かせないものだなぁとは思っていても、その成り立ちや、声をかけている人たちのことについては、あまり知られていないのでは? 
最近は、ちょっと大向うが多すぎて、しかもそれが、声を掛けている人の自己満足っぽく聞こえることも少なからずあって、ちょっとなぁ…、と感じていた。
そんな時に、学生時代から、芝居好きで大向うの会に入って声を掛けてきた山川さんの本が出たのは、タイムリーだ。
山川さんも本書の中で「掛声はやりすぎると無粋になる。ほどのよい掛声で誰が聞いても「なるほど」とか「いいマだ」と感じさせることが出来れば大成功だ。「邪魔にならない掛声」とは、そういうことかもしれない。」と書いておられる。
山川さんが知る、大向うの達人たちは、何度も芝居に通い、台本を読み、歌舞音曲のお稽古をして、絶妙の間で声を掛けることに喜びを感じてきた人たち。そこには、芝居や役者さんに対する愛情や尊敬が溢れていた、ということが伝わってくるエピソードの数々。だからこそ、役者さんも大向うの人たちを大切にするのだろう。お互いの信頼関係がきちんと構築されていた。
歌舞伎を見るのが好きな人、さらに、これから声を掛けてみたいと思っている人、すでに何度か声を掛けてみた、という人にもぜひ読んでいただきたい一冊。

大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし

大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし