俳句
蒲郡常盤館に「いとう句会」同人参集につぎの一句をおくる 梅雨の屋根いまさら濡れて来りけり 『これやこの』所収
船津屋とは『歌行燈』に描かれたる湊屋のことなり。すなはち、主人念願の記念碑のため につぎの一句をおくる 獺に燈(ひ)をぬすまれて明易き 『春燈』所収
桑名船津屋にて 短夜や止(や)みし二階のさんざめき 『春燈』所収
「短夜」演出ノートより 短夜のあけゆく水の匂かな 『春燈抄』所収
湯島天神町といふところ、震災にも戦災にも逢はず、古き東京のおもかげをとゞむ みじか夜や焼けぬせうがの惣二階
薄暮、微雨、而して薔薇しろきかな 『春燈』所収
俥 上 幌の紗のしばらくかげる若葉かな 『文藝春秋』所収
新緑のカヂノフォーリーレビュウかな 『春泥』所収
夏場所やひかへぶとんの水あさぎ 『春燈』所収
「スバル」はなやかなりしころよ セルむかし、勇、白秋、杢太郎 『春燈』所収
セルとネル著たる狐と狸かな 『春燈』所収
椅子の背のことさら高き薄暑かな 『春泥』所収
なにもかも夏めく影を落すかな 『春泥』所収
葉桜にみえて昼火事もゆるかな 『ゆきげがは』所収
北鎌倉、東慶寺にて 牡丹哀しもとより草の深ければ 『冬三日月』所収
雨の牡丹仏にきりてきたりけり 『春燈』所収
島崎先生の「生ひ立ちの記」を読む。ーーありし日の柳橋のほとりの家々のさま思ひいでらる神田川祭の中をながれけり 「文藝春秋」所収
菖蒲湯のあけてありたる湯殿の戸 『青みどろ』所収
ゆく春の耳掻き耳になじみけり 『これやこの』所収
ハルピン、キタイスカヤ、イベリヤといへるロシア料理店にてパンにバタたつぷりつけて春惜む 『これやこの』所収
永井荷風先生、逝く。……先生の若き日を語れとあり ボヘミアンネクタイ若葉さわやかに 『春燈』所収
恋仮名書の御経と答へ朧かな 「国民新聞」所収
春の灯のまたゝき合ひてつきしかな 『春燈』所収
野遊びに行く自動車にみな乗りし『春泥』所収
花柳章太郎、二十三、四年ぶりにて「日本橋」のお千世を演ず何もかもむかしとなりてかぎろへる 『久保田万太郎句集』所収
銀座松坂屋の屋上にて東京は水の都のかすみかな『春燈』所収
落椿夜めにもしろきあはれかな 『流寓抄』所収
脇息といふじやまなもの春火桶
草も木も雨よろこべり蛙鳴く 『春燈』所収
天と地と中に息して花あかり 角川春樹