先日、大宅壮一ノンフィクション賞が発表された
受賞作は、昨年の今頃世間の話題を席巻していたSTAP細胞問題のドキュメント『捏造の科学者』だ。
そもそも、なんでSTAP細胞をめぐって、マスコミが大騒ぎしたのか? 科学論文って、そんなにいい加減でいいのか? なぜ再生医療をも視野に入れた発見なのに、出てくるのは医者じゃないのか? などなど、うっすらと疑問に思ってはいたけれど、積極的に自分から調べようとはしなかった。科学のことなど何も知らない素人に、わかる訳ないし、と諦めていた。
が、年明けの新聞書評で、「素人にもわかりやすいよう、書かれている」とあったので、それじゃあ!と読み始めてみたのが、2月下旬。
確かに、科学に無知な素人にも、なるべくわかってもらえるように、という努力を著者が払っている、ということはわかった。STAP細胞論文がなぜ画期的だと思われたのかを、丁寧に説明しているので、おおまかなこの論文の画期的な点は、うっすらと理解することができた。
もともとなんの知識も持っていない私が、はっきりわかった!と言えるはずもないので、これで、この本に求めた第一のポイントは、クリアできた。
本書では、なぜ、マスコミがこのSTAP細胞論文の「Nature」誌掲載を大々的に取り上げたのか、その後の捏造疑惑をめぐる加熱報道とも思える騒ぎ、この間、毎日新聞の科学記者である著者が、どのように動き、誰からどんな情報を得て、それを紙面にどう反映させようとしたのか、といったことがほぼ時系列に沿って述べられていく。
新聞記事に反映させることのできなかった、今だから言えるギリギリの線なんだろうな、と思える数々の取材成果も、興味深く読んだ。世紀の発見とまで言われた学術論文が、まるで砂上の楼閣のようにあっけなく崩壊していく軌跡と、それを報道する記者の心の動きは、サスペンス小説を読んでいるような感覚を覚えた。読み物としては、かなり面白かった。
が、わたしが抱いたいくつかの疑問への答えは、残念ながら見つけることができなかった。
科学論文は、一部メジャーな雑誌に掲載されることで、その世界で認められるのだというが、その一つである「Nature」が今回のような問題山積みの論文を掲載したということは、今までの価値判断を信じることはできないということなのか? こんな論文捏造をして、誰にどんなメリットがあるのか? 笹井芳樹氏はなぜ自殺したのか? など、新たな疑問も浮かんできた。
さらに、理研という、私にとっては謎の組織が、結構問題を抱えているらしい、ということが新たに見えてきた。理研って一体何なんだ?ということも含め、この件は、もうちょと調べてみたい。

捏造の科学者 STAP細胞事件

捏造の科学者 STAP細胞事件